白無垢の家!
昨年の秋、木曽路を歩きました。以前(若かりし頃)一緒に働いた同僚(上司も)との旅です。地元出身で大阪育ちのIさんがプランを練り、ツアコンを引き受けてくれました。・・・が、そのプランは日頃無理を強いている私の膝にとってはなかなかハードなもの。一抹の不安があったものの、足に負担の少ないシューズを購入し、履き方の指導まで受けて臨んだので、何とか乗りきることができました。良かったぁ、足手まといにならなくて・・・。Iさんお奨めの一日一組限定の宿では、周囲に気兼することもなく四方山話に夜も更けていきました。
馬籠宿は、以前訪れた時よりも観光地化されたように感じましたが、妻籠宿は江戸時代の趣きを残し、しっとりとした風情がありました。安藤広重の浮世絵に描かれた旅人が歩いていても不思議じゃない感じ。景観保全活動に取り組んだ地域の人達の努力の賜物ですね。観光客も戻ってきたようで混み合って、なかには外国人の姿もありました。初秋とはいえどもまだまだ暑い日でしたが、「脇本陣奥谷」に入れると心なしかひんやりして汗がひいていきました。住宅の説明を聴くために囲炉裏を囲んで座わりました。土間の吹き抜けは煙抜きのためで、家人が毎日磨いていたという柱や梁は艶を帯びて趣がありました。格子が嵌った高窓からは柔らかな光が差し込んで、その美しさにしばらくぼーっとしていると心地よい風が吹き抜けていきました。現代人は、住宅設備の進歩によって快適さを手に入れました。そんな設備のない時代、人々は知恵と技術によって心地よさを手に入れていたのでしょう。2階の軒が突き出た出梁造(せがい造り)は、庇の代わりになって旅人を雨や雪から守ります。外側から内側が見えない格子は、目隠しの役割を果たし、旅人のプライバシーを守ります。家は人々の暮らしと地域に根差したものでした。それゆえ街並みが美しいのかもしれません。
”たとえ一軒の家であっても、そのまちなみを形作る一端であるとともに、そのまちの社会的資産でもある”は所長の設計理念の一つです。なぜそんなことを気にかけるのか?なぜそんなことが必要なの?って思われる方もいるでしょうね。敷地の状況、周辺環境、日射状況、通風や防風、雨や雪等、四季折々の変化を考える。それは家が地域に密着したものだった先人たちの知恵を取り入れるためです。所長の設計した住宅に住み始めて間もない建て主から、「ずいぶん昔からこの家に住んでいたような気がします。私達にはぴったりの家です」という言葉をいただきました。所長は「設計者として一番嬉しい」と素直に喜んでいました。また、住宅が完成時のオープンハウスに初めて参加する見学者の中には迷う人が多いのです。なぜならば新築住宅に見えないからだそうで、それだけ周囲と馴染んでいるのでしょう。
先日、役所広司さん主演の、「Shall we dance?」を観ました。今更ながら役所さんはどんな役をやっても、その役柄に自分自身を同化させてしまう凄い役者さんだなあって思いました。セリフがそんなに多い訳ではなかったのに、主人公の心情がすーと伝わってくるのです。阿川さんがある対談番組で彼のことを「白無垢の役者」なんだと話していました。それならばその土地にす〜と馴染んでしまう所長の設計する家は、「白無垢の家」なのかもしれないなんて・・・。
|