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村松篤設計事務所は、静岡県の西部、浜松市にあります。

お問い合わせはTEL.053-478-0538

〒432-8002 静岡県浜松市中区富塚町1933-1

  ☆この曲はのあらっさん『夏の夕暮れ』という曲です。 
   

   工務店と設計者

 従来、工務店は設計から施工までを一貫して受け、その会社独自の方針を貫いていました。そのため、外部とは積極的に接触をすることはなかったようです。(一部には設計事務所と共に仕事をする工務店もありましたが、それほど多くはありませんでした。)だから工務店に所属している設計者は、建て主のこだわりやデザインを重視するよりも、それまで工務店が培ってきた住宅を踏襲した設計をする、または工務店にとって造り易い住宅を設計する等の傾向があったように思われます。その独自性は、『○寸角柱、総檜造り』なんていう瓦屋根の和風住宅が“どうだ〜”という感じで前面に押し出されている新聞チラシにも見ることができます。その会社の一押し、自信作なんでしょう。これはこれで檜神話が生きている年配の方々の心を掴むのかもしれません。ある意味、木にこだわる年齢層の方々が、「やっぱり家は檜だよ」と声高らかに語っているのを時々耳にします。


 檜は建築材料としては優良材です。日本書紀にも「杉と樟(くすのき)、このふたつの木は船を造るのによい。檜は宮を造る木によい。」とあるように、神話の時代から最高の建築材として尊ばれてきました。加工しやすく、耐水性に優れ、適度な硬さがある檜は、構造材から内外装材まで幅広く使われています。特に心材の耐久性が高いようで、世界最古の木造建築である法隆寺も檜を使っています。だからそのチラシからは上質な木材を使っているというのは伝わってきます。だけどそのデザインはなんとも私には古臭く、野暮ったいように感じられてしまうのです。住宅に対するニーズは多様し、こだわりをもつ建て主が増えてきました。得意分野の家だけを造り続けていくだけでは、時代の変化に対応できなくなっているように思われます。最近の新聞チラシによく見られる“建築家と建てる家”というキャッチフレーズからも、家造りに対する工務店の姿勢が変化を感じます。

 また住宅に関する問題がマスコミに取り上げられたりして、建て主の方も今までのように工務店に頼んでしまえば大丈夫とは一概には考えなくなってきたようです。“建築についての下調べをしていく内に、工務店任せでいいのかという疑問が消えません。当然、工務店の設計士が来るということですので工務店に有利な建築がされてしまうおそれがありませんか。”という質問がありました。 “工務店に有利な建築”という危惧さの中には、設計面や施工面、そして金額的な側面が含まれているだろうと推測します。設計を設計事務所に頼むことで工務店との間にワンクッションはいることになります。設計事務所は建て主と設計委託契約を結び建て主の代理になって施工会社と折衝することになるためフェアーな仕事を期待していただけるのではないでしょうか。これからは設計事務所に設計を、工務店には施工をというような形態が増えていくのかもしれません。

 そして独立した設計者に頼もうという考えをお持ちになったら一歩進んで、その設計者の仕事をよく知ってから頼まれた方が良いと思います。建築家によっては数寄屋造りのように和風が得意な方、コンクリートを打ちっぱなしのモダンが得意な方、または両方を器用にこなす方等様々です。その建築家がどんな建物を造っているかを事前に理解することが大切です。そして建築雑誌やHP等で“こんな住宅が良いなあ”、“この設計者の住宅が素敵だなあ”と思ったら、その住宅を実際に見学してみることをお奨めします。やはり写真だけではよく分からないことが多いので、現地に赴いて実際の空間を感じることが大切です。お店に入って“なんか落ち着くとか居心地がいいじゃない”と思ったことはありませんか。それはその空間と感性があうからでしょう。住まいは長く生活する場所です。そんな居心地の良い空間で暮らしていけたらそれに越したことはありません。そんな感性が合う設計者を見つけることは、建築後の生活を考える上で意外と重要な意味合いを持っているように思います。
  
 
 

   上野の森!

  久しぶりに新宿から山手線に乗って驚いた。ホームにある乗降口を示す場所の間隔がやけに短いと思っていたら、以前に比べて一車両中のドアが増えていた。その間には3人掛け程度の座席が設けられ、それらは上に折りたたんで収納できるようになっていた。そして“平日の10時までは使用できません。”と書かれたシールが貼ってあった。ラッシュアワーの乗客を考慮というか、回避するためにこういった車両が造られたんだろう。それを見て所長が「こうすることで益々車両の強度がなくなるんだよね」と言う。そうかもね、それになんだかどんどん人に優しくなくなるような気がした。“年を取ったら電車に乗るなということかなあ。”とそんなことを考えているうちに上野に着いた。

 上野の森は建築の宝庫だ。公園口の直ぐ目の前には前川國男さん設計の東京文化会館が、その隣にはル・コルビュジェ(フランスの建築家であり、画家)が設計した国立西洋美術館が建てられている。これは日本に唯一ある彼の作品だというけれど、実際には彼は基本設計だけで実質は前川國男さんや坂倉準三さんによるらしい。彼は近代建築の5原則(ピロティ・独立した骨格構成・自由な平面・自由な立面・屋上庭園)を指摘し、鉄筋コンクリート造の可能性を導き出し、建築のモデュールについて黄金比数列に基づくデザイン用尺度を考案した人である。美術館の内部は彼が設計する住宅同様にゆるやかなスロープで上階に上がるようになっていた。前方の開口部には切り取られた緑の木々が映し出されていた。そんなちょっとした演出が巧みだ。その前に並べられた椅子には何人かの人が寛いでいた。

 前川さんはコルビュジェの弟子のひとり。師匠と弟子の作品が隣り合って建っているのが面白い。ちょうどABT(アメリカン バレエ シアター)が来日公演をやっていたので、当日券を買い求めた。改修工事が行われたようなので、当時のオリジナルがどこまでなのかはよく分からないが、ガラス張りのホワイエ(フランス語でたまり場、団らんの場の意味)はとても開放的で、周囲の緑と調和していた。黒い天井には照明が散りばめられている。きっと夜の部ではまた違った雰囲気を味わうことが出来るだろう。原色好きな前川さんらしく劇場内は真っ赤な座席が並べられていた。サイドの席が舞台に向かって斜めになっているのは、観客の立場を考えて設計されているからだろうなあ。(音楽の街として国際ピアノコンクールが開催されるわが町のホールのサイド席は舞台に対して直角でとても見にくい。)側方にはいろんな形を組み合わせた無垢の木の音響反射板が面白いと言えば面白かったけど、ちょっとグロテスクだった。

 そして東京国立博物館・法隆寺宝物館は谷口吉生さんが設計したものだ。谷口さんは丸亀市猪熊弦一郎美術館、豊田市美術館等多くの美術館の設計を手掛けていて、人気のある建築家のひとりなので、案の定学生らしき人達が写真を何枚も撮っていた。アプローチから見た建物のプロポーションはさすがに美しい。建物の前に水を敷きつめ、取り囲む自然との調和を図る手法も顕在だった。だけどこれまで見た建築物ほどには感動はなかった。谷口さん持ち味の光と影の演出があまり生きていないように思われたし、洗練された素材感をあまり感じなかった。それは展示物が特殊で内部が暗かったせいなのかもしれない。ちなみに前川國男さんの弟子が代々木の国立競技場や東京都庁を設計した丹下健三さんで、谷口さんは丹下健三さんの事務所で働いていた。ル・コルビュジェの影響は日本の建築の中に脈々と流れている。
  
  

  選択の時代

  ピアノのN先生はS社のス○イラインに長年乗り続けているが、それもそろそろガタがきたようで、今車の買い替えを検討している。「この次の次の車は私の好きな車にするの。」って言っているが、別に次の次ではなく、次の車でそうすればいいのにって思うんだけど、まあ何か事情があるのかもしれないので深くは追求しなかった。どうもスポーティーな車にしたいみたいだ。先生のお友達が確か真っ赤なア○ファロメオのクーペに乗っているからかなあ。だけどあと数年で還暦を迎えるであろう団塊の世代の皆さんはとても若々しい。おしゃれだし仕事だってバリバリこなしている。私の子供の頃は還暦祝いに赤いちゃんちゃんこを贈られる年代って、もうお年寄りって感じだった。今ではとてもそんな風には見えないよ。(吉永小百合さんだってねぇ〜。)やがてそんな熟年世代が若者に代わってスポーツカーを乗り回すようになるんじゃあないだろうか。いやもうそんな時代が到来しているのかもしれない。今や付加価値のあるものを選択するこだわりの時代だ。ちなみに8月に発表したT社の高級ブランド「レ○サス」の1ヶ月の受注状況は4600台で、同社が掲げた月間販売目標の3.8倍に達したという。

 住宅だってこだわりたい人が増えてきた。やはりおしゃれな家に住みたいよね。先日奏庵を訪ねてくれたOさんは、「ハウスメーカーの家は魅力を感じないのよねぇ。」と言っていた。だからOさんはハウスメーカーではなく地元の工務店を選択したという。確かに週末の新聞チラシで企画住宅のプランを見ることがあるが、外観にしても間取りにしてもあまり魅力を感じない。それらの住宅は細部にわたるまでシステム化されているし、プランにおいても様々な制約があるからだろう。それは坪単価を低く抑えるためにはしかたがない。また事務所を訪ねてくれたFさんも言っていた。「家の新築を考えているご家族の多くは、企画住宅ではない家を望んでいるんですよ。だけど費用のことを考えると企画住宅を選択せざるを得ない。企画住宅はあまり好きではないけれど、さりとて注文住宅には手が届かない。だから企画住宅を選ぶんだけど、満足している人は少ない」と。皆さん「その中間がないのよね〜。」と嘆いているらしい。そして2世帯住宅を依頼してきてくれるご家族の中でこだわるのは子世帯の方。親世帯は子世帯に引きずられるようにしてやってくる。「わしゃあ何でもいいんだけど、息子がこの設計士さんにって言うもんだから・・・。」とあまり家造りに興味がなさそうだ。だけど打合せが始まるとご家族総出で事務所にいらっしゃる。

 そんな潮流を受けて住宅会社や工務店が建築家と組んでデザイナーズハウスを提案してきている。それは建て主にとってすっごく良いことだと思う。なぜならば従来のようなモデルハウスを建てて、その会社のコンセプトを示し、自社で設計するという方針では様々な弊害があったように思うからだ。所長も以前勤めていた住宅会社でモデルハウスを設計した。それがS社の天竜川展示場にあった現代民家「宇」だ。今でも印象深く覚えていてくれる人がいて、とても嬉しく思う。だけどそのモデルハウスを設計したものの、その完成と同時ぐらいに関連会社に異動したため、その住宅会社に依頼してくるお客さんの住宅の設計をすることはなかった。「このモデルハウスを設計した人にお願いしたい。」という申し出もあったが、それはなかなか難しかしく、結局は設計スタッフよって設計された。その住宅会社には数人の設計スタッフがいたが、その作風はそれぞれに異なっていた。だからお客さんが持つイメージとその設計担当者の持つイメージの間に微妙なずれが生じていたのではないだろうか。

 建築家が美しい町並みを形成する役割を担っているとするならば、多くの人に質の良い住宅を提供していく義務があるだろう。しかしどちらかというと設計事務所は、一般解(不特定多数の人達のための住宅)というよりは、特殊解(一定の人のためのこだわりの住宅)の設計を担ってきた。これではその責任を果たすことは出来ないだろう。オートクチュール(デザイナーが特定の顧客の注文を受けてデザインし製作する)だけではなく、プレタポルテ(高級既製服)も手掛けることが必要になってくる。それには否定的な建て主もいる。所長は至れり尽くせりで、痒いところにも手が届く感じで設計を進めている。それを望む建て主は多いが、後者になるとなかなかそこまで関われなくなってくるからだ。それに価格の事を考えるとある程度はシステム化する必要もでてくるから、要望も制限せざるを得ない。だけどあまりシステム化しすぎても面白みにかけるからなぁ、そのへんの兼ね合いがとても難しい。価格を考慮しながら質の高い住宅を実現していく。それがこれからの課題だと思う。
 
 
  

  空間へのこだわり

 以前、建築探訪を兼ねてヨーロッパを周遊した。スペインのマドリッドを始点に、ヨーロッパ8カ国を廻って、再びスペインのバルセロナに戻ってくるという旅だ。結構ハードで、ちょうど折り返し地点のスイスでは疲労が蓄積し、ビタミン剤を飲みながら気力をふりしぼった。ドイツでは車窓から眺められる田園風景が少し疲れを癒してくれたかな。観光バスはクラッシックをかけながらロマンチック街道をひた走った。やがてどこかで見たことのあるお城が姿を現した。そう、ノイシュバンシュタイン城だ。森の中に佇む姿は、なんて優美で美しいのだろう。このお城はバイエルンの国王ルードヴィヒ2世によって建てられ、別名白鳥城とも呼ばれている。小高い山の頂上に建てられたこの城は、眼下に湖を臨みとてもロマンチックだった。だけどこんな山の上にお城を造るなんて迷惑な話だなあ。建築資材を運ぶのだって大変だったろう。それも外敵の侵入を防ぐための要塞として建てられたって訳でもなさそうだ。ワーグナーに傾倒した王が、彼のオペラの世界を実現するために造った、どちらかといえば趣味が高じてという類のもの。そんなお城に莫大な費用が投じられている。この為政者の目には人民のことが映っていたのだろうか。こんな浪費をする前にもっとやることあるんじゃないかな。

 だけどこの城のおかげで多くの観光客が訪れている訳で、今やこのお城はこの国(街)の大切な収入源。歴史って長い目で見なければいけないのかもしれない。私達はこのノイシュバンシュタイン城が眺められる宿に宿泊し、翌日麓から馬車に乗ってこの城を目指した。外観の美しさゆえ期待を胸に城の中に入ったのだが、だけどねぇ〜、このお城の中はその優美さとは相い反して、装飾過多で悪趣味の極みのようであった。バロック、ゴシック、ルネッサンスとさまざまな建築様式を取り入れて造られたみたいなんだけど、それらがなんだかうまく調和してない感じでとっても落ち着かなかった。私だったら一日だって住めないよ。このお城がノイローゼ気味だった王の病気に拍車をかけたんじゃあないかとさえ思ってしまう。何処からか、「素敵〜」という声がする。「えっ」と耳を疑い周囲を見回すと、後から入ってきた二人連れの女性がうっとりと眺めていた。人の感性って本当に様々だ。私にはやっぱり奏庵の方がしっくりくる。

 空間っていろんな要素が複雑に絡み合って構築されている。たとえば住宅の高さや広さ、間取り、ドアや窓の位置、そして照明器具や家具等もその要因に含まれている。なかでも天井・壁・床等の仕上げ(材料の選択、色合い)は、空間構築におけるもっとも大切な要因なのだという。所長の感性が色濃く投影され、無垢の木とほたて漆喰壁によって仕上げられている奏庵の空間は、とても洗練され落ち着いているように思う。Iさんもその空間に共感してくれた建て主のひとり。家の建替えに5年間という長い歳月を費やしてきたというこだわりの人で、特に空間に対するこだわりが強い。美術の教師の資格を持っているIさんは変化に富む空間を好み、いつの日かフランク・O・ゲーリーの設計したビルバオ(スペイン)にあるグッケンハイム美術館を訪ねてみたいと言う。退職後はアトリエで絵画を描いたり、彫刻を造って暮らしていきたいようだ。空間談議が延々と続くIさんとの打合せに所長も楽しそうである。

  実施設計になって益々力が入ってきたIさんは、浴室にはイタリア製のガラスタイルを希望していた。予算の関係で一時は諦めることになったが、どうもここに来て再浮上してきているようだ。その商品に似たものはあるが、やはり質感や輝きが違うからイタリア製のものでいきたいと言う。「一生懸命働きます。」と一緒に打合せにやって来た娘さんと楽しそうにカタログを見ている。「まるで女学生に戻ったようなんだよ。よっぽど好きなんだねぇ。」と打ち合わせから戻ってきた所長は呟いていた。(その後その他のところにもこだわりが出てきてしまい、残念ながら諦めることとなった。)先日、実施設計が完了した。Iさんの夢を盛り込んだ新居は案の定予算をオーバーしていた。「これくらいならば、何とかなるかなあ。」とも言うIさんに娘さんは少し心配顔。あまり無理してもと一応減額プランを渡し、検討してもらうことにした。その後、娘さんと相談して決めたという減額内容は、内部空間に関しては一切変更項目はなく、ほとんどが外観に関する部分だった。う〜ん、Iさんらしい。
  
  

  熊野古道!

 毎年受けている人間ドックで、運動不足を指摘されてはいたんだけど、“喉もと過ぎれば熱さを忘れる”という諺にもあるように、しばらくするとすっかり忘れてしまう。しかしそれを思い知ったのは一昨年前の秋、紅葉を求めて友人と行った京都への旅だった。初日に紅葉の名所、神護寺を訪ねた。神護寺の階段はとてもきつかったが、それでもなんとか山頂までは辿りつくことが出来た。まあ、坂だからこんなものかなと楽観していたんだけど、翌日東山を散策してその考えは一変した。ただ何もない平坦な道だというのに少し歩いただけで腰が痛くなってしまうのだ。う〜ん情けない。こんなにも体力が衰えていたなんて・・・。友人にもとても迷惑をかけてしまった。祖母が『身体は惜しむもんじゃあない。』とよく言っていたが、その言葉は本当に正しい。横着することは決して自分のためにはならないんだ。それ以来運動を心掛けている。そんな努力の結果、しだいに体力も回復してきた。(まだ若いってこと!)そこで今年の春は熊野古道を歩こうと熊野へと旅だったのだ。

 今や熊野古道を歩くツアーがブームらしい。世界遺産に認定されたのが大きいのかもしれない。そんな熊野詣がもっとも盛んだったのは十二世紀。京都から熊野にいたる熊野街道は参詣者があふれかえり、蟻の行列に似ているというので、「蟻の熊野詣」と呼ばれていたという。源平の争乱の時代に人々は魂のやすらぎと救済を求めて熊野に押し寄せていったのだ。その道筋は大きく3つに分けられている。紀伊半島の西岸を通る「紀路」、東岸を通る「伊勢路」、高野山と熊野三山を結ぶ「小辺路(こへち)」だ。「紀路」は田辺から熊野本宮大社を結ぶ「中辺路(なかへち)」と、紀伊半島の海岸線を進む「大辺路(おおへち)」に分かれている。今回は比較的歩きやすいといわれる中辺路を歩くことにした。新宮からバスに乗り熊野本宮大社に向かう。途中寄り道(瀞峡)をしてしまったので、本宮に着いたのはお昼をまわってしまった。本来ならば発心門王子から熊野本宮大社に向かって歩きたかったんだけど、仕方がないので逆ルートで行ける所まで行くことにした。本宮大社から脇道を行くと祓戸(はらいど)王子があった。熊野古道を旅してきた人達がここで旅の汚れを落とし、清めてから本宮へお参りしたという分社だが、私達にとってはまだまだ先は長い。

 しばらく歩いていると、杉並木が続く道(イメージ通りの熊野古道)に入った。昨日の雨のせいで地面が幾分湿り気を帯び、深く生い茂る樹木が太陽の光を遮って少しひんやりとしていた。予想していたよりも急勾配だったので、滑らないように気をつけながら歩く。爽やかな空気と独特な杉の木の香りに包まれていると自然に気持ちが癒されてきた。これはフィトンチッドの影響なのだという。フィトンチッドが副交感神経を刺激することで、精神を安定させて、ストレスを緩和し安らぎを与えてくれるのだ。木の香りは身体にいいんだなあ。そういえば天井と壁に青森ヒバを張った奏庵の浴室は木の香りがとても芳ばしく、マンションのお風呂とは違って芯から寛ぐことができるように思う。思わず“極楽、極楽”と叫んでしまう程だ。

 このフィトンチッドとは樹木が光合成をする時に発散する天然の揮発性物質で、その主要な成分はテルペン類と呼ばれる有機化合物。抗菌、防虫、消臭、抗酸化作用等で害虫や病害菌等から植物を守っている。しかし人には優しくて、血圧低下、血行促進、細胞の活性化、新陳代謝促進、自律神経調整、疲労回復、二日酔い・体調不良時の頭痛・吐き気の軽減など数多くの効果を与えてくれるのだ。途中の展望台で休んでいると、ガイドらしき女性に連れられて団体客がぞろぞろやってきた。団体客のほとんどは年配の方々で、なかには結構年齢を重ねたように見うけられる人もいた。皆さん補助用の杖を持っているが、あまり疲れたようには見えなかった。これもフィトンチッドの影響かな。現代の参詣者は健康のため、そして癒しを求めてこの道を歩くのだろう。
 
 
  

  住宅見学!

  先日、K建設さんが仕事をした住宅の見学に行った。所長は今まで組んだことのない建築会社に施工をお願いする場合、仕事をきちんと仕上げてくれるかどうかを判断するためにその建築会社が担当した住宅を見せていただくことにしている。今回、K建設さんでは3軒の住宅を用意してくれた。1軒目は急な坂道を昇ってそろそろ息が切れるかなあという場所にあった。玄関を入って直ぐの階段を少し降りるとダイニングキッチンがあり、東側の窓からは太陽の光が燦々と注ぎ込まれていた。その階下が寝室でその上がリビングになっている。高低差のある土地を考慮して設計され、玄関から見ると2階建てだが、逆側(庭)から上方を眺めると3階建てという住宅だ。本来下地材(下地材とは、仕上げ材を構造的に支持し、仕上げ材が美しく容易に取り付けられるようにするための基材。建物が完成すると外部からは見えなくなる。)に使うものをそのまま仕上げ材として用いてあったりして、とてもカジュアルな空間だった。

 2軒目の家は閑静な住宅街の一角にあった。階段を上りきった先が玄関になっているので、私達はぞろぞろと上っていってドアを開けると、そこには格調高そうな七段飾りの雛人形が飾られていた。まあ、それを飾るに値するような、とっても広くって贅沢な感じの玄関ではあった。それにしても気が早い。まだ2月上旬だったんだけど・・・。でももしかしたらこの雛人形を飾るために、この玄関を造ったのかもしれないなあなんて思った。3軒目の住宅はおしゃれな住宅街にあった。「この家は評価が分かれるんです。」とNさん。確かに天井、壁に張りめぐらされたOSBは圧巻だった。このOSBとは、木材の小片を接着剤で接着し、それを熱圧成型した合板のこと。そこそこの強度があり、反りも少ないので本来は下地材として使用するが、この住宅ではそのまま仕上げ材として用いていた。このOSBには独特な模様がある。それを面白いと受け入れるか、これはちょっとと拒否するかで評価は変わるんだろうなぁ。

 この日は建て主のAさん御夫婦を伴っての見学だった。どんな会社が自分達の家を建ててくれるのかを見極めたいようだ。大切な家だから信頼のおける業者に頼み、しっかりした施工を望んでいるのだ。設計事務所では基本設計、実施設計が完了すると、いよいよ監理業務になる。建築会社や工務店等が作成した施工図面を確認し、仕事が図面通りに成されているかを監理していくのだ。しかし村松事務所ではその施工図面をも作成している。(建て主の希望によります。)設計意図を忠実に反映したいと望んでいる所長のこだわりのためだが、数十枚もの図面を作成するものだからそれなりに費用もかかってしまう。だからA邸の施工に関しては、施工図面は施工側にお任せしようと心積もりをしていた。要望重視のプレゼンだったので予算を考慮しての判断だった。するとご主人から「それは是非お願いしたい。それが村松さんの生命線でしょう。」という言葉が発せられたそうだ。う〜ん、それを聞いてちょっと感動した。

 今回3軒の住宅を見学させてもらった訳だけど、所長以外の設計の方の住宅を見学するのはとても有意義だったと思う。所長が構築する空間とは幾分異なっていた。建物の寸法、用いる材料、空間の展開、開口部の取り方等で随分空間の印象が変わるものだと改めて感じた。K建設さんの施工に関しては、常に建築家の方や設計事務所と組んで仕事をしているので、『設計者の意図を理解してきちんと仕事をしている。』と所長も安心したようだ。また、住宅に対するこだわりを持っている建て主の皆さんが、自分達の家にとっても満足しているように察せられたし、K建設さんとお客さんとのコミュニケーションも上手くいっている様で好感を持った。それはAさんご夫婦も感じたようだ。見学する前には他の会社の仕事も見てみたいと言っていたのに、後日(見学から何日も経っていなかったように思う)「K建設にお願いしたい。」と連絡が入ったのだった。
 

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