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村松篤設計事務所は、静岡県の西部、浜松市にあります。

お問い合わせはTEL.053-478-0538

〒432-8002 静岡県浜松市中区富塚町1933-1

  ☆この曲はあらっさんの『追憶』という曲です。 

    

 浜松・静楽居

 今月、いよいよ『静楽居』が完成する。先日ホームページでオープンハウスの開催をお知らせしたところ、設計打合中のご家族の皆さんをはじめ、多くの方々が気に留めてくださっているようなのでとても嬉しく思う。この『静楽居』の親世帯の施主はなんと80歳。そして子世帯の住人は(すでにご存知の方もいらっしゃるとは思うけど)、実はこのコラムでもたびたび登場するピアノのN先生なのだ。当初は週末に家族が集まる週末2世帯住宅(私が勝手に命名させていただいたので一般に何ていうのかは知らない。)ということで設計はスタートした。しかし設計が進むにつれて、次第に先生達の気持ちが変化して、自分達も住みたいということになった。同居を決めると、打合せに対する先生の意気込みも変わってきたのだった。

 「この2年間というもの、建築を勉強をさせてもらったわ。」とN先生がおっしゃるように、本当に熱心に勉強されていた。今思えばピアノのレッスンをするよりも建築のことについて話す方が長かったような気がする。熱心なあまり車で住宅を見学中に行き止まりの道にはまり、バックで戻ったこともあったようだ。上棟時組みあがった新居を見て、まるで美しい鳥が羽を広げているようと顔を上気させていた。就寝前にちょっと図面を見るつもりが気がつくと数時間経っているという事もざらにあったようだ。私だって図面をそんなには眺めていられない。それ程この住宅の完成を心待ちにしていた。先日もレッスンが終わった後、次のレッスンまで少し時間があり、N先生が「ちょっと出かけてこようかしら。」とそわそわとしていた。「どこかに行かれるんですか?」と聞いたところ、「ちょっと家を見に行ってくるわ。」という。だってその日は現場で打合せがあったはずだから、既に様子は見ているはずなんだけどなあ。また行くのだろうか・・・。その日、所長は建築家のH先生に誘われていて、私も暇だったので一緒に行くことにした。

 『静楽居』に入るとプーンと木の匂いがした。新築時の奏庵を思い出し懐かしい気持ちになった。思ったよりも内部造作は進んでいた。相変わらずM棟梁の仕事はきれいだ。1階リビングの吹き抜けはとても高く、広々と感じた。これは目の錯覚という現象の表れでもある。リビングの掃き出し窓のサイズが通常よりも大きいこと、キッチンの天井が低く抑えられているということ、OMダクトが2階まで延びていること等の理由がある。先生はこの吹き抜けが、2階とのプライバシーを考慮してあるということでも大いに満足されていた。1階を足早に見学し、先生のこだわりの部屋であるリラックスルーム(リビング)に上がった。2階は吹き抜けを挟んで和室とこのリビングの二間しかない。だけどリビングの東側にロフトがあることで、圧迫感から開放され広やかな感じを味わうことが出来た。このロフトの入り口のドアの上部はアーチ型になっていて、少しサイズが小さいように思う。そのせいなのか、まるで秘密の部屋に行くみたいでちょっとワクワクした。階段を降りる時、目の前にある桜の木を見て、「そうだわ、春にはお花見しましょうよ。」と先生の心は早くも来年の春に飛んでいるようだった。

 外観を見ながら、先生が「本当に村松さんが設計する家は品がある。」とおっしゃった。(ちょっと照れてしまう)「先生、綺麗に住んでくださいよ。」と言うと少し間があり、「大丈夫よ。あんまり物を持っていかないようにするから・・・。」という返事。それでも一抹の不安を感じてしまう。推測するにN先生はあまり片付けが得意ではないらしい。以前住んでいたマンションでの生活の様子を結局一度も見せてくれなかった。これまで家を新築された皆さんの様子を見ていると、以前の生活を引きずる傾向がある。もちろん新築を機にとてもきれいに住んでいるご家族もいらっしゃるけど、検討しているものの苦戦している皆さんもいる。こればっかりは資質の問題もあるから、あまり無理をしない方が良いと思う。帰りの車の中で、「家作りがこんなに楽しいとは思わなかった。」と喜ぶ先生の笑顔を見ていると、楽しく住んでもらえればいいかなって思った。

 

 音楽のある風景

 心地の良い空間の中で、音楽を楽しんで暮らしていきたいという私の要望を、所長は叶えてくれた。N先生のご厚意でグランドピアノまで貸していただけることになり、本当に奏庵という名前がピッタリの家になった。昨年、念願のお茶会(身内の発表会)を開くことができた。N先生の生徒さん達が日頃の練習の成果を発表するために集まってくれたのだ。このクラスは年齢層も20代から80代までと幅広く、職業も多種多様で、普段接点がないような人達が一同に会する。そんな皆さんの演奏を聞くのが楽しい。途中、緊張して弾けなくなってしまう人もいるけど、それもまた一興だ。(ちなみに男性の方が多いかな。女性よりも繊細なんだろうか?)上手な人の演奏を聴くと、停滞していたピアノへの想いが再燃する。よ〜し、また明日から頑張るぞと気合が入るのだ。

 その日はピアノのレッスン日。いつもよりちょっと早く着いてしまったけど、ちょうど弾いてみたい曲があったので楽譜を探すことにした。だけど何回探してもその楽譜は見つからない。変だなあ〜、絶対置いてあってもいいはずだ。それとも売り切れたのかしらと焦ってお店の人に聞いたら、新譜のコーナーなんてものがあり、そこにちゃんと置いてあった。早速買い求め、ちょっと幸せな気持ちでレッスンにむかった。廊下で待っていると、Oさんがレッスンを終えて出ていらして、「頑張ってね。」と言ってお帰りになられた。Oさんは80歳を過ぎているのにとてもお元気で、いつもご自分で車を運転してレッスンに通って来られる。子供の頃にピアノを習っていたということで、やっぱり基礎が出来ているせいなんだろう、タッチがとてもしっかりしていて、曲だけを聴いていると年齢的なものを忘れてしまう。そのOさんがレッスン中に戻っていらして、「村松さん、下で『冬のソナタ』の楽譜を買ったでしょう。」という。いきなりだったのでちょっとびっくりしてしまい、「えー、誰に聞いたの。(そんなのお店の人に聞けば分かることなんだけど)」そしたら「うふふ、私も買っちゃたわ。」と言う。N先生も、「あの楽譜を最初に注文したのは、私なのよ。」とちょっと得意顔でおっしゃった。な〜んだ、皆な冬ソナに嵌(はま)っていたのだ。

 昨年、友人達とカラオケに行った時、冬ソナの話題で盛り上がった。私はNHK の番組予告で名前を知ってはいたんだけど見るには至らなかった。12月に再放送をするという。これはちょっと見てみようかと録画をしておいた。年末に軽〜い気持ちで見始めたのに、いつの間にかすっかり夢中になっていた。何でこんなに惹きつけられるのかよく分からないまま、一日中見続けていた。なぜか所長も珍しく見ている。主人公になったつもりで、マフラーを巻いていた。(相変わらず目出度い。)今まで韓国というとキムチとかサッカーサポーターの熱い応援などで赤というイメージだったんだけど、このドラマでは、白い世界が美しくそして繊細に描かれていた。一生懸命さとか、真面目さとか、謙虚さとか、日本人が忘れかけようとしていることを思い出させてくれた。サッカーのあの激しすぎるぐらいの応援は一生懸命さの現れなのだと理解した。近くて遠い国だったのが、とっても近い国になった。ドラマに流れる曲もまたいい。私はCD(サントラはもちろんクラッシック盤まで)を買ってしまい、毎日のように聴いていた。そして自分でも弾いてみたくなったのだ。

 それにしても、冬ソナのテーマ曲、“はじめから今まで”はもっと簡単に弾けるものと高をくくっていたが案外難しい。まあ、私の技量不足もあるけれど、ちっとも先に進まない。次第に嫌になってきた。『そうだ、私はショパンのノクターンの練習をしているところだし、二兎追うものは一兎を得ずっていう諺もあるから、今は脇目をふっている時じゃあない。』と言い訳をしながら、楽譜を奥の方に仕舞い込んだ。ところがレッスンに行くとN先生が、「この曲(冬ソナ)はどう。」と気にかけてくれる。「まあ、ボチボチですね。」と答えると先生曰く、「この曲にチャレンジしていた人達も、この曲は弾きにくいと手こずっているみたいよ。弾くのを止めてしまった人もいる。」という。それを聞いたら、なぜだか再びヤル気が蘇ってきた。『やっぱり弾こう。根性よ!根性!』ってなんだか優雅なピアノに最も不釣合いな言葉が浮かんだ。だけど湖面を優雅に漂う白鳥だって、水の中では水かきを必死で動かしている。そう優雅に見えるその姿の影では、涙ぐましい努力の日々があるんだ。そんな訳で、このところ奏庵ではいつにも増して拙いピアノの音色が響いているのです。
 
 

 モデルハウス

 この奏庵はモデルハウスの役割も担ってくれているので、時々来客がある。所長の建築を体感していただくために、見学してもらっているのだ。だけどいつでも見学可能な訳ではなく、事前に予約を入れていただいている。やっぱりお見せする以上、住宅展示場にあるモデルハウスのようにはいかないまでも、ある程度きちんと片付けられていなければならないと私は思っているからだ。これから夢を持って新居を建てようという皆様に、生活感溢れた空間をお見せする訳にはいかない。「大変でしょう。」と皆さん気遣ってくれるけど、私はあんまり気にならない。片付けは嫌いではないからだ。それより私には料理の方が苦行に思える。これは子供の頃の父親の無神経な言葉に起因しているんだと思うんだけど・・・。まあそれはさておき話を戻すと、この奏庵をひととおり見学していただいた後、リビングのソファーに座ってもらう。ソファーからの目線で奏庵を見ることも大事だからだ。

 でも最近ちょっとためらいがちになってしまう。それというのもソファーの綻(ほころ)びが顕著になってきたからだ。これも愛猫ベルの仕業なんだけど・・・。そろそろ張り替えなければならないとは思っているんだけど、その張替え費用というものが半端じゃあないので、今は静観している。でも、このままボロボロになっていくのかと思うとちょっと心が痛む。実はこのソファーはイタリアのマジストレッティによってデザインされたもので、名前をマラルンガという。な〜んとニューヨークの近代美術館のコレクションにもなっているのだ。以前住んでいたアパートからちょっと広めのマンションに引越しをした時に購入したものだ。私達にとってはとっても高価な買い物だったが、「ソファーは座り心地の良いものを購入した方がいい。」と所長が力説するので、その座り心地とデザイン性に惹かれ思い切って買ってしまった。消費税が3%から5%に上がるという世の中の動きに後押しされた感もある。だけどその座り心地には大変満足している。この奏庵のリビングにもとてもしっくりと納まっているように思う。

 先日、見学にいらしたIさんもソファーに座ってホッとした顔をなさった。そして「やっとたどり着いたという感じがします。」とおっしゃった。Iさんはインターネットで検索して村松事務所を知り、それまでに見たホームページとはちょっと違うので、こういうホームページを作るところはどんな家を建てているのか興味をもったのだという。お問合せ箱経由で『建て替えを考えているので、貴事務所に伺いたい。』というメールをくださった。Iさんもこだわりの人だ。家造りのことを考え始めてから、5年の月日が流れてしまったという。5年の間、いろんな建築会社や工務店を廻り、モデルハウスを見て歩き、それでもしっくりくる家がなかったのだそうだ。それがここにきてやっと見つかったと喜んでいた。一緒にいた娘さんも以前S展示場で見学したモデルハウス(現代民家「宇」)という住宅がとても印象に残っていたという話をしてくれた。この奏庵にその面影を見たようだ。

 S展示場にあるモデルハウスは、所長がまだM社に勤めていた頃設計し、17年という長い間その役割を果たしてくれていた。今は事情があって見学することが出来ないが、結構ファンがいるみたいなのだ。私は肩がこるので、月に一度はマッサージをしてもらいに行く。(なぜか所長も一緒についてくる。)そこで働いているFさんと以前交わした会話の中で『住まい』というものにすごく関心があるようだったので、新居が完成したら一度遊びに来ればとお誘いをしていた。今年になって律儀なFさんから連絡が入り、先日寄ってくれたのだ。そのFさん、この奏庵の中に入ったとたん、S展示場にあるモデルハウスのことを話し始めた。子供の頃(?)家族と一緒に見学したそのモデルハウスのことがすご〜く印象に残っていたという。なぜだか分からないけど急に思い出したということだったので、「それを設計したのは所長だよ。」って教えてあげたら、ひどくびっくりしていた。所長の設計した住宅(建築)が見学した多くの人達の記憶に残っているということが、とても嬉しく思われる。

追伸
私共は遠江・奏庵に興味を持ってくださる方々に、住宅の見学をしていただいています。しかし、いきなり飛び込みでいらして見学のお申し出をされましても、ご希望にお応え出来かねますので、事前に連絡をしていただければと思います。また、業者の方の見学についてはご遠慮いただいておりますのでご了承下さい。
  
  

 撮影裏話

 1月某日、奏庵が雑誌社の取材を受けた。昨年、F社から「この奏庵を掲載します。」という連絡をいただいてから、所長と二人この日が来るのを楽しみに待っていた。しかし撮影当日はあいにくの雨模様。前日からの雨が降り続き、小降りにはなったものの、空は鈍よりと厚い雲に覆われていた。午前10時を過ぎた頃、ライターのTさんとカメラマンのKさんがやってきた。所長は久々の対面になるTさんの名刺を見て、「安曇野にお住まいなんですか。」と驚いていた。てっきり東京に住んでいるものと思っていたらしい。もう住んで8年になるという。「最初移った頃は玄関の温度がマイナス10℃だったので、ここに住めるかなあと不安になった。」という。穏やかな感じの人だ。カメラマンのKさんとは初対面だが、所長はKさんとお会いするのをとても楽しみにしていた。所長が以前建築雑誌を見ている時に『いいなあ』と思った写真があって、撮影者の名前をず〜と記憶していたみたいなんだけど、Kさんはなんとその撮影者だったのだ。私も後からその写真を見せてもらったが、単なる写実ではなく、しっとりとして語りかけてくるような趣きを持った写真で、私も好きだなあと感じた。

 Kさんは入って来るなり部屋の中を見回して、「暗いなあ。」と一言。蛍光灯の光よりも自然の光で撮影をしたいようだった。早速天気予報を調べたが、お日様マークは午後3時からだ。待ってみても仕方がないと思ったのか、「まずは外から始めましょうか。」と皆で外に出た。撮影って結構大変で洗濯の物干しを移動したり、網戸をはずしたりとセッティングをしなければならない。所長は前日から気合が入り、一生懸命に窓を拭いていた。その甲斐あって雨が降ったにも関わらず、窓は綺麗に輝いていた。(所長の苦労が報われて良かった。)外観写真を撮影していると、辺りが少〜し明るくなり始め、玄関を写す頃には雲間から柔らかい光が注ぎ込んできた。天気が味方をしてくれていると嬉しく思っていたら、部屋の奥から愛猫のベルが現れた。この猫撮影となるとなぜかシャシャリ出て来る。それもカメラの前でポーズまでを作りだすのだ。「いい表情するねえ。」とKさんに言われ、ご機嫌の様子だった。

 室内の撮影が始まった。リビングから撮り始めていく。何か花が欲しいという。え〜、気の利いた花なんかないよ。それでも花器を見繕って庭に出てみた。庭といってもこの季節、花なんかあまり咲いてない。花を探しながら、まるでアシスタントみたいだなあと思った。まあそういう経験もいいかもしれない。生垣の山茶花を飾った。すると不思議なんだけど、ちょっと飾っただけなのに、リビングがすごくいい感じになった。和室、キッチン、ダイニングと撮影が続く。私達が奏庵と名付けたからだろうか、ピアノを中心に写真を撮っているように思えた。(グランドピアノを貸してくれたN先生も喜んでくれそうだ。)Kさんは「この家は撮り出がある。」と、細部にわたって撮り続けた。お昼は疾うに廻っていた。

 2階の撮影が始まり、Kさんも「なんとか目途がったってきた。」と言っていたのになかなか撮影が終わる気配はない。お昼抜きの状態でいささか疲れたので和室に座っていると、所長が呼びにきた。「絶対この状態をデジカメで撮って残しておいた方がいいよ。」という。見るとKさんが2階の寝室の前の信じられないような場所にカメラを置いてファインダーを覗きこんでいる。「絶対この位置から水平に撮りたいんだ。」と燃えていた。とうとう脚立まで登場してきた。さっすがはプロだ。私はこんなアングルを考えたことはない。この家の住人である私さえ普段気づいていないこの奏庵というものを、Kさんのファインダーはどんな風に切り取ってくれているのだろう。雑誌が出版されるのが楽しみだ。
   
   

 熱心な建て主

 昨年、N邸の施工(基礎工事)が始まった。それなのにN家族はまだ展示場通いをしていた。今年は正月2日からT展示場に行って来たようだ。特に欲しいわけでもなかったけど、福袋をもらったと満更でもない様子。その後もS展示場にある所長が設計したモデルハウスを見学に行ったようだ。見学といっても今は事情があって中を見ることは出来ない。外観を眺めて来たようなんだけど、『やっぱり、いいわねえ』と話してくれた。そう言われると嬉しいものだ。先月、無事上棟を済ませた。Nさんはその様子を写真に収めていたが、お母さんはその音を録音していたという。熱い!建て主の方は皆な熱心だ。

 関東のK市に住むFさんから、お話を伺いたいとの連絡をいただいたのが昨年の夏。所長の設計した住宅も見学したいということだったので、奏庵にいらしていただいた。奥さんと二人でやってきたFさんは、口数は少ないながらも奏庵の空間を堪能していた。ただ、設計事務所(建築家)に設計を依頼することに少しの戸惑いを感じているようだった。建築家は自分の作品という意識が強く、自分達の想いが無視されてしまうのではないかと危惧されていたからだ。そういう建築家の方もいらっしゃるかもしれないけど、所長はより良い家を実現するために助言はするけど、まず第一に建て主の想い、要望を実現していくことを考えている。(もちろん予算の範囲内でです。)それを聞いて少し安心されたようだった。もっと住宅を見てみたいという申し出があった。ちょうど秋には所長の設計した住宅が次々と完成を迎える。だから近いうちにオープンハウスの案内をホームページ上でお知らせしますよとお話した。

 Fさんはホームページの近況報告が更新されると、早々に見学希望のメールを送ってくれた。それと同時に『村松さんの設計した住宅を外観だけでも自分で見て廻りたい。可能だったら住所と地図を送って欲しい』という希望も書き添えられていた。う〜ん、困った。気持は分かるんだけど、村松事務所ではお客様のプライバシーを尊重するという意味もあって、オープンハウス以外での個別情報についてはお教えしていない。その旨メールにて説明して、ご了承はいただいたが、所長はFさんの気持ちを考えると、希望を叶えてあげたいと思ったようだ。ちょっと遠いが東北のA市で開催するオープンハウスの案内と、A市でなら数軒の住宅を案内することが可能である旨を伝えた。なんとFさんはご家族でA市まで見学に来てくれたのだ。なんか感動を覚えてしまう。Fさんにとってそんな見学はとても有意義であったことが後日の打合せ時に判明した。それはその時に提出された家に関する18枚のレポート(要望書)が物語っていた。隅々までくまなく見ていたんだと思われる。屋根、外壁、内壁の仕上げ等がFさんなりにまとめられていた。

 Yさんもこだわりの施主のひとり。住宅見学会に行って床下に潜り、施工具合をチェックしたという。なかなかそこまでは出来ないよ。ちょうどYさんの現場は事務所から近いこともあり、年末にスタッフ全員で敷地の確認に行った。これから正月休みに入る。良い機会なので基本プランを練るようにスタッフに課題を与えた。そして仕事始めの日にプランを持ち寄り、辛口ピーコのファッションチェックさながら、皆なで辛口の批評を交わした。私もとても興味があったのでプランを見せてもらった。リビングからダイニング、キッチンへの展開がいいじゃない。伸びやかだし設計の意図が伝わってくる。敷地の様子もよく理解していて、隣の家の庭を借景にしているところなんて、なかなか良く考えられている。休み中練り上げただけのことはあるなあと思いながら2階に目を移す。あれれ、この納戸って子供部屋からしか入ることが出来ないから、すごく使い難くそうだ。それにやけに長い廊下がとても無意味な気がした。別のプランも見せてもらった。これはなかなか良くまとまっている。う〜ん、まとまってはいるんだけど、なんか物足りない感じがした。設計ってやっぱり難しいなあ。感性だけではまとまらず、論理だけでも面白みに欠ける。そのバランスが微妙だ。設計事務所に依頼してくる方々は、皆な熱心だ。住宅に夢を持っている。最近以前にも増して思うようになった。そんな建て主のために魅力的な住宅を提案していかなければいけないんだと・・・。所長、頑張れ〜。
 
 
       

 一家団欒

 休日の朝、先に起きだした所長がリビングで何やら叫んでいると思ったら、階段を上がってきて「早く窓の外を見てみろ。」としきりに薦める。何事が起きているのだろうかと怪訝な顔をしながら窓を開けると、そこは一面雪景色。『国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。』とは川端康成の小説の冒頭だけど、その日の朝はまさに『窓を開けると雪国だった。』のだ。こんなことって浜松では稀有なことで、温暖な浜松は滅多に雪が降らないし、降ったとしても遠州のからっかぜが雪を吹き飛ばしてしまうので積もらない。それなのに12月にこんな綺麗な景色を用意してくれるなんて、なんて素敵なんだろう。実はこの日は私の誕生日。自然の粋な贈り物にとっても気をよくしていた。そういえば普段に比べると肌寒い。温度計で外気温を見るとなんと1℃だった。それなのに室温は19℃。温度差が18℃もあるなんて、やっぱりこの家は性能がいいなあ。M&N邸はどうなんだろう。

 この日はM&N邸を訪れることになっていた。新居が完成してから早2ヶ月。Nさんから「庭が出来たので是非お出でください。」という連絡をいただいたのだ。以前からあった庭に少し手を入れたようだ。私はオープンハウスの時から、この庭の完成を楽しみにしていた。そこでお言葉に甘え、事務所スタッフ全員で図々しくもお邪魔することになった。リビングに入るとお目当ての庭がすぐに目に入ってきた。このリビングは吹き抜けになっているのでとても広やかだけど、それがまた庭へと繋がることでより広々としていた。やっぱり庭はいいなあ、自然との一体感をも感じるよ。リビングから庭を眺めていれば、どこかに遊びに行かなくてもいいような気分になった。予算の関係で奏庵の庭は後回しになっているが、何とかしたいものだ。

 「本当に暖かい」それが親世帯のご主人Mさんの最初の言葉。これから年をとっていく訳だから、それが一番ありがたいことだという。ただ以前は夫婦でそれぞれ個室を持っていて様々な用途に部屋を使うことが出来たのに、新居では2世帯住宅ということでの制約のため、個々の部屋ではなく書斎や寝室、納戸という要素に変わってしまったことに戸惑いを感じているようだった。だけど布団で寝ていた頃に比べると、ベッドの生活は起きるのが楽になったという。奥さんもキッチンの収納が楽になったといっていた。キッチンはシステムキッチンと一部作り付けになっているが、作り付け部分に引き出しを多く作ったことで、使い勝手がよくなったようだ。子世帯のご主人Nさんも暖かいと好評。Nさんはこの冬になってもジョギングをしている。「以前住んでいた家の時は、走りに行こうという気持ちはあるものの、体がついていかなかったんですよ。」と笑っていた。寒いのでなかなか起きることが出来なかったようだが、この家に引っ越してからは起きてそのまま走りに行けるという。奥さんのCさんは、子供の頃にいつも見ていた裏のミカン畑をまた2階から見ることが出来ると喜んでいた。2階は本当に景色がよくて天気が良い時には、ベランダから富士山が眺められるという。私も小学校の屋上から小さいながらも富士山が眺められたのを思い出した。静岡県人にとって富士山には特別な思い入れがあるのだろうか。

 今回の建替えは娘さん夫婦が密かに計画して、いろいろと建築会社を廻っていたらしい。村松事務所へのメールも娘さんのCさんからいただいた。Cさんは仕事柄、自然素材や自然エネルギー利用ということに関心を持っていて、住宅展示場で見学したモデルハウスでOMソーラーによる床暖房ということを知り、そこのホームページから村松事務所を辿ってくれたのだ。ちょうどオープンハウスの予定があったので案内をしたら、一家総出で見学にいらしてくれた。一昨年前の冬のことだが今だ鮮やかにその時の様子は記憶に残っている。Mさん自身は定年退職後、趣味の生活を堪能していて、家を建替えることなど考えてもいなかったらしい。だけど家を建替えて本当に良かったと話してくれた。この日一番印象に残ったのは、お孫さんと一緒になにやら紙の模型を作るMさんだ。この家のリビングには暖かな団欒の空気が漂っていた。 

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