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村松篤設計事務所は、静岡県の西部、浜松市にあります。

お問い合わせはTEL.053-478-0538

〒432-8002 静岡県浜松市中区富塚町1933-1

☆この曲は作曲家・須釜俊一さんの『Celestial Night』という曲です。
  
  

  みんなの家 

 5月の連休、久しぶりにのんびりした時間がとれたので、ビデオを借りてきた。三谷幸喜脚本・監督の『みんなの家』だ。この作品は映画が上演された時から見たいなあと思っていたが、結局見過ごしてしまった。映画って知らないうちに終わってしまう。もっとまめにチエックしなければとは思うのだが・・・。この映画は、ココリコの田中直樹さんと元アナウンサーの八木亜希子さん扮する夫婦が家を新築しようと計画したところから始まる。そして設計を依頼したデザイナーの唐沢寿明さん(内装などのデザインを手がけるが建築士の免許を持っていない設定)と大工で父親の田中邦衛さんとの対立、それに戸惑う夫婦を軸に物語は展開していく。(これは三谷家で家を新築した時のことがモデルになっているようなので、なんかとってもリアルな感じだ。)奥さんから「モダンな感じがいいわ」と依頼されたデザイナーが設計したものを父親は気に入らない。大工の父親には、家はこうあるべきだというこだわりがある。それがデザイナーや夫婦のそれとは大分ズレていて、21畳の和室を作ってしまったりする。でもみんなの共通意識は、いい家を造りたいというものだから、すったもんだしながらも互いに妥協し、歩み寄り、相手を認め合っていく。そして無事『みんなの家』が完成する。なるほど確かに『みんなの家』だ。施主である夫婦の、設計者の、そして大工(職人)の、それぞれの想いが詰まっている家だから。どうでもいい家ならば誰もそんなにむきになったりはしない。適当に造って、『はいどうぞ』って感じだろうか。

 所長も日頃の仕事とダブルところがあるのか、頷きながらもヘラヘラ笑って楽しそうだ。現場が始まると思いもよらないことが起こったりする。そんな様子が面白おかしく描かれているからだろうか。所長は自分の設計したものが、図面どおりに建てられていないと気がすまない。現場に行って図面と照らし合わせ、図面と異なる仕事を前にするとやり直しの指示を出す。現場の大工さん達はイライラが募り、文句のひとつやふたつ、みっつ、よっつ、いやいやそれ以上飛び交っていることだろう。仕事のし易い図面を書けば楽だろうに、なにせ頑固者なのだ。設計者は孤独だなあ。だけど所長は平気な顔、「本物の職人というものはいくら手間がかかっても出来たものがよければ、それで納得するものだ」という信念を持っているからなのだ。

 野村加根夫氏(建築家)は『建築家の吉田五十八氏は、仕事に詳しいから職人には随分無理をいった。ある時仕事がまずくて、吉田五十八に怒鳴られた職人がノミを持って追いかけてきたこともあったという。いわば数奇屋の近代化を成し遂げるため命をかけて仕事をしたといっても過言ではない。だが私の知る限りあれほど職人と交わり職人が精一杯各人の腕を出し切るように導いた建築家を見たことがない』と述べています。また、『吉田五十八は生前建築雑誌に設計詳細図を発表するのを避けた。その理由はディテールが、熟練した名人の腕により始めて可能な高度な納まりが多かったからなのだ。』とも言っています。

 確かに腕のいい職人さんたちの仕事は見事だ。モデルハウスとして16年間建ちつづけている現代民家『宇』もしかり。大工の棟梁のHさん及びお弟子さん達、左官職人、庭師のTさん等によって形作られた空間は、何年経っても色褪せることなく気品を漂わせている。腕の良い職人さんたちによる仕事振りには自然と頭が下がる。敬意を表さずにはいられない。所長の設計がどんなにすぐれたものでも、それを形にしてくれる職人さんたちが居なければ、設計図面は何の価値ももたなくなる。大げさに言えば、ただの紙切れにすぎない。そんな所長の書く図面は難しく、読み取ることのできる大工さんは限られているようだが、棟梁のHさんはその図面を前に、いつも勉強になるといって向き合ってくれていた。常に向上心を失わず、親子ほどに年の違う所長の仕事を丹念にこなしてくれていた。しかし昨年の夏、永眠してしまった。これからも一緒に仕事ができると思っていただけにその知らせは所長にはショックだったようだ。とても残念に思うが、そんな職人と出会うことが出来たことを感謝したい。
 
  

 自然との融合 

 私は美しい建築が好きなのです。特に線がきれいで、無駄のない空間に惹かれてしまいます。吉村順三さん、吉田五十八さん、ル・コルビュジェ、ミース・ファン・デル・ローエ、そして安藤忠雄さん。安藤さんの場合、その発想力、造形力に目がいきがちだったのですが、先日読んだ雑誌のなかに、『戦後の住宅は合理性という名のもとに多くのものを捨て去ってしまったように思います。それはまず自然との触れ合いであり、生きている実感であると思います。光の射し方、風の流れ、雨の音、私はそういった身体に語りかけてくるものを切り捨てたくないと思い続けてきました。』という文章を見つけて、ちょっと意外な気がしました。安藤さんの建築、特に商業建築においては、自然との融合など結びつかなかったのです。

 1991年、安藤さんはJR京都駅コンペに参加しました。安藤案は、鉄道の上の部分に人工地盤のプレートを作り、屋上庭園を計画しました。そこには、たとえば桜の木々が生い茂っている、そんな平成の大庭園を目論んだのです。大庭園は人々を京都にと誘うことでしょう。庭園越しに眺める京都の町並みはどんなに魅力的なものに映ったことでしょう。うん、すごい発想、こんな発想どこから来るのかなあなんて思ってしまいます。そんな大庭園の向こう側にはツインゲートを配し、東海道線で南北に分断された領域を再び連続させようとしました。1200年後の未来に、平安時代の羅生門が復活したかもしれません。残念ながら、コンペは別の建築家の作品に決まってしまったので、安藤案は実現することはありませんでした。私は安藤さんの考えた京都駅を見てみたかったなあと思います。

 大型建築を数多く手がけている安藤さんもスタートは住宅でした。初期の代表作に、日本建築学会賞を受賞した『住吉の長屋』があります。この住宅は、間口が狭くて極端に狭い土地に建っています。安藤さんはその土地を3等分し、真中の部分を切り取りとって中庭にしました。施主は部屋から部屋へと移動するために、必ずこの中庭を通らなければなりません。でもこの中庭には屋根がない。だから雨の日には傘をさして、底冷えのする冬には身を縮めて通らなければなりません。でも反対に天気の良い日には、青空を見上げ開放的な広がりを感じることが出来ます。空気の清々しさ、太陽の恵み、四季の移ろいを感じることが出来るのです。こういう自然との係わり方もあるんだ、自然と共に生きるということはこういうことなのかもしれないなんて考えさせられました。住まい手も、『正直言って雨の時は、足も濡れるし、うっとうしい。でもこの開放感は何事にも代えがたいものです。』(太陽 1995/10)と満足しています。

 また、住吉の長屋と同じようにコンクリートの打ち放しの住宅に住んでいる施主の『夏はすっごく暑いし、冬はすっごく寒いし、最初の一年間は「闘い」でしたね。このごろやっと雨の日には雨の音を聞くのもいいかなとか、自然の風を肌で感じられるのが心地好いことだなと、わかってきました。』(太陽 1995・10)という談話がありました。安藤さんは、『建築は闘いだ』と常々語っていますが、住まい手も同じように闘っているようです。私は甘いと言われそうですが、こんなに能動的ではなくて、もう少し受身な形で自然と関わっていければなあと思っています。夏は涼しく、冬は暖かい、そんな部屋の中で自然を感じていたい。私にとって住まいとは、闘いではなく癒しの空間でありたいと思うので、安藤さんの住宅はちょっと遠慮したいと思います。

 
  

感性豊かな施主達

 建て主の方には、自分達のなかにある家のイメージを膨らませてもらうためもあって、所長の設計した住宅を見学していただく場合があります。(その御家族の厚意によるものなので、必ずしも見られるということではありません)どの家も個性的で、御家族のこだわりが感じられる素敵な住宅なのですが、皆さん目が肥えていらっしゃるのか、『丘の上の家』の人気が高いのです。本物の木の質感、低く抑えられている空間、時間の経過とともに、屋根の銅板や杉材の壁が渋く変化して美しく古びていく風情、2階リビングからの眺望等の感想をよく聞きます。また、築9年になるというのに、いまだに風呂に漂っている槙の木の香りも好評です。この家はこだわりの施主、こだわりの素材、そして所長のディテールのこだわりというものが重なりあって、当初の予算よりもオーバーしてしまいました。住宅はお金をかければ良いというものでもないけど、かければかけるだけの良さも事実生じてくるようです。だから、一般的な予算を考えているご家族には、この家のような仕上げを望むのはちょっと難しいかも知れません。でも似たような雰囲気にもっていくことは出来るので、ご安心していただきたいと思います。

 他に人気があるといえば、『街の語りべになる家』、『現代民家・宇』、『コッコハウス』、『門田の家』などでしょうか。最近ではモダンな『草薙の家』にも人気が集まっています。以前、『街の語りべになる家』を案内した時、お客さんの感性の鋭さに驚かされました。この家は土地に高低差があるので、アプローチはゆるい坂になっていて、このアプローチから玄関、そして居間へと自然な流れができています。居間に入ると玄関とは対照的に明るい空間が広がっています。開け放たれた吐き出し窓から十分な光が射しこんでいるからですが、こんな光の演出を敏感に感じとったお客さんがいました。『う〜ん、さすが』と感心してしまいました。

 また、皆さんは感性豊かなだけではなく、住宅について大変勉強されているようで、打ち合わせの時に、「吹き抜けにして上から光を取り入れたらどうでしょうか」なんて、所長をたじろがせるような意見が飛び出してきます。なかには図面を持参してくる人もいます。図面といってもいわゆる間取りというもの。図面から建て主の考えを読み取ることができるので、この図面を参考にして欲しいということならまだいいのですが、自身たっぷりにこのまま建ててくださいと言われるとちょっと困ってしまいます。一生懸命考えたのでしょう、なかなかうまくまとまっているようには見えます。でもよくよく見ると、一元的な見方でしかないので、光の取り入れ、風の流れ等が感じられません。それに動線に無理があったりするのです。動線というのは結構重要で、不自然な動線は、最初は気にならなくても毎日のことなので徐々に気になりだします。ある建築家が、「家族を仲良くさせるのも、別れさせるのも設計次第だよ」という話をしていらっしゃいました。どのような設計をすればそうなるのかという詳細は聞いていないので分からないのですが(思い切って聞いてみればよかった)、そんなことも要因のひとつになるのではないかと、私は推測しています。

 そんな皆さんですが、完成した基本プランの図面を前にしての反応は、鈍いような気がします。建て主がいくら勉強しているとはいえ、平面図から空間を想像することはやはり難しいのでしょうか。そこで最近では模型を作っています。事務所には器用な模型部長がいるのです。立体的になるので分かり易いのか、平面図だけの時とはあきらかに反応が変わってきます。「わぁ〜、こんな感じになるんですね。」ミニチュアだけど形になった我が家をみて、目の輝きが変わっています。気の早い施主はもう出来た気分になっています。目出度いなあとは思いますが、微笑ましいものです。

  
   

工務店、設計事務所それぞれのメリット、デメリット

 HPを立ち上げてから、早いもので2年が経った。アクセスカウンターをつけて1年半。最初はあまり訪れてくれる人がいなくて、カウンターが伸びず張り合いがなかったけれど、最近ではいろんなところからアクセスしてくれているようで、カウンターを見るのが楽しくなった。この『ちょっと余談ですが・・・』も、少ないながらもリピーターがいらっしゃるようなので、月に1度は更新しょうと心に決めて頑張っています。でも、HPの立ち上げは大変だった。所長はパソコン苦手なアナログ人間だし、業者に頼むと高そうなので、結局私が作ることになったんだけど、まさに暗中模索。私は専門的に勉強(建築もパソコンも)したわけではないので、どうやってHPを作っていったらいいのか分からない。参考になるかと思って、ほかの設計事務所のHPを尋ねて廻ってはみたが、しばらく途方にくれていた。

 そんなある日閃いた。私は所長の手伝いをしながら建築の勉強をしてはいるけど、まだまだ私の知識は、お客さん(お施主さん)の知識に近い。お客さんだって、あまりに専門的な説明だと難しいかもしれない。それならば、私が学んだ知識を私の言葉で伝えていければいいのではないか。『村松篤の家に対する考え方』、『村松事務所の造っている住宅』を分かり易く伝えればいいのかなと・・・。家を新築するということは、一生のうちで1度あるかないかの事、ましてや初めてという場合が多い。分からない事が多いだろうし、不安だって感じてしまう。所長にとって当たり前のことでも、私にとっては疑問だったりする。そんなお客さんに近い視点で、疑問に答えられたらと思う。最近、メールでの問い合わせや質問等が増えてきた。そんなお客さんの語りかけも余談で伝えていこうと思う。今回、『設計事務所、工務店それぞれのメリット・デメリットは?』というメールをいただいたので考えてみました。

 工務店といっても、全国展開しているいわゆるハウスメーカーのような会社から、地元に密着している小〜中規模的な会社までいろいろあるので、ひとくくりに説明するのは難しい。ここでは前者的な工務店を取り上げて、説明したいと思います。
ハウスメーカーのような量産住宅を主に設計している会社は、どんな土地にも当てはまる普遍的な住宅を想定して、住宅の設計をされているようです。そしてそれらの住宅は、○○シリーズとか呼ばれるいくつかの型(タイプ)に分けられています。お客さんはそのなかから、自分達に合ったものを選択していく。だから、メリットとしてはあまり手間がかからない。そして大量生産で、ある程度、既製品化された住宅なので、価格的にも抑えられているというようなことが考えられます。デメリットとしては、ハウスメーカーの設計担当者は、個々の土地についてはあまり考えないようなので、土地と一体になった住宅、環境との共生を希望しているご家族には、不向きかもしれません。また個性的な住宅を希望している方には、物足りないかもしれません。

 村松事務所(設計事務所にもいろいろあるので)では、まず住まい手ありき。お客さんの住宅に対する考え方、生活の仕方、家族構成、職業、趣味、将来の夢等を知ることから始まります。そして土地ありき。周囲の環境を丹念に調べます。その上で、お客さんの要望を聞き、予算のことを考えながら、お客さんの想いを具現化していく。
『世界に一軒しかない自分の住まいがほしい。』
『自然を感じながら、緑に囲まれながらすごしたい』
『周りの環境からとび抜けて浮かない家、でも個性的にしたい』
『昔からそこに存在していたのではないかと周囲から錯覚されるような、自然と溶け込んでいる家』。
最近、お客さんの要望のなかには上記のようなものが増えてきました。自分らしさを表現しながら、自然と共存する家を求めているご家族が増えてきているということでしょうか。村松事務所では、このような要望をかなえ、その家族のために唯一無二の家を実現していくことを可能にしたいと思っています。デメリットとしては、一品生産なので、金額的にハウスメーカーの住宅のそれに比べたらかなわないし、ひとつひとつ決めていくことも多いので、とても時間がかかるということです。(その過程を楽しいと感じる方は設計事務所向きかな。)
 
  

坪単価の不思議

 お客様から、「村松さんのところでは、坪単価おいくら位なのでしょうか?」という質問をよくされます。やはり予算に制約があるので、坪単価が気になるようです。でもこの坪単価というものなかなか曲者で、一言では説明し難いものなのです。雑誌に掲載されている住宅には建坪と建築費が記載されているので、同じような条件のものを比べてみました。A邸とB邸はおおよそ建坪40坪、でもA邸の建築費が1800万、坪単価45万なのに対し、B邸の場合は、建築費は2400万、坪単価60万でした。同じ建坪なのに坪単価はこんなに違います。なんかとっても不思議。そこで所長に訊いてみました。

 
A邸は、床材が複合フローリング(下地に合板を使用し、表面に天然の薄い単板を接着剤で張り合わせたもの)を使用、内壁の仕上げは塩ビのビニールクロス、断熱材も薄く、窓は単層ガラスの一重サッシで、浴槽もキッチンも材料同様安価なものでした。それに対してB邸では、床材に無垢(本物の木)フローリングを使用し、内装には調湿性を考えた塗り壁、断熱材も健康を考慮した羊毛ウール、窓はペアガラス入り二重サッシ等、材料の質や仕上げにもこだわりが感じられました。このように、施工にあたる会社や施主側のこだわり・予算等によって、住宅に使われる材料や仕上げが異なっています。そのため建築費の金額も違ってくるようです。

 一般に建築費(坪単価に含まれる工事の範囲)と呼ばれる費用は、『本体工事』にかかる費用を指しますが、この『本体工事』の項目(内容)が地域や会社によって大きく異なっています。A邸の場合は、電気工事や給排水衛生工事のうち、建物の外壁から1m離れた屋外の工事になると『別途工事』になっています。また、造り付けの家具工事や照明器具等も『別途工事』ということです。B邸の場合は、電気工事や給排水衛生工事における屋外の工事や造り付けの家具工事・照明器具等は『本体工事』に含んでいます。坪単価を考える場合、この『本体工事』、『別途工事』の内容を検討することも必要になってくるようです。

 住宅の新築を考える場合、坪単価は確かにひとつの目安にはなります。でも、あまりこだわりすぎないほうがいいのではないでしょうか。大切なのは、どのような材料を使って、どのように仕上げていくかということを、つまりは工事の内容を検討することだと思います。

 
  

 会津若松の宵

 所長から『会津若松は雪が多いので、馴れないと必ず転んでしまうから気をつけなよ。』とさんざん言われていたのに、車窓からの景色は予想と違っていた。気合を入れて降り立ったプラットフォームも暖かい。今朝の浜松のほうが、風が強くてよっぽど寒かった。迎えにきてくれたT社の社長、Iさんも、『今年の会津は暖かくて雪が少ないんだ。』と言っていた。私としてはありがたい。初めての会津若松。この街は、所長の設計した住宅が多く建てられていて、以前から見学したいと思っていた。もっと季節の良い時にと思う方もいるだろうが、『OMソーラー(太陽熱を利用したパッシブソーラーシステム)を体感するのだったら、やっぱり寒い時期のほうがいいよ。』という所長の意見とT社の社長さんをはじめ会津の皆さんから『新年会をしましょう。』というお誘いもあったので、この時期に訪ねることになった。今回も観光は無縁のようだ。

 
この日は打ち合せの後、喜多方に向かう。喜多方には、ピーチハウスとコッコハウスがある。ピ-チハウスはその名前の由来となったピーチ色の外観が素敵な住宅。でもその外観を見るためには、すでに陽は傾きすぎていた。う〜ん、残念。2階のリビングを見せてもらう。杉材の木肌、障子、塗り壁が、とてもよく調和していて暖かさを感じた。床の上には赤ちゃんが気持ちよさそうに眠っている。邪魔をしてはいけないので早々にお暇することにした。次はいよいよコッコハウスだ。この住宅は雑誌やTVで紹介されていて、よく知っているつもりだが、やっぱり住宅は本物を見なければ始まらない。到着しましたという声にコッコの顔を探したが、どこにも見当たらなかった。あいにく前に住宅が建ってしまったのだそうだ。仕方がないか。玄関でHさんご夫婦が迎えてくれた。(雑誌に紹介されているので、私のなかではすでに顔なじみ)靴を脱いで上がった床が暖かい。足の裏から暖かさが伝わってくる。部屋の中ものぼせるような暑さではなく、自然な暖かさという感じだった。

 まずは住宅を見学させてもらう。想像した以上に吹き抜けが高く、ダイナミックだ。TVのリポーターも滑った滑り台がある。本当に空間が広々としていて、寒い冬でも伸び伸びと生活しているだろうH家の日常が浮かんできた。ひととおりの見学を済ますと、囲炉裏にはすでに皆ながスタンバイしていた。憧れだった囲炉裏に座る。やっぱりいいなあ。不思議と落ち着いた。そんななかでの新年会。今日のメンバーはHさんご夫婦、T社の社長 Iさんご夫婦、Tさん、そして所長と私。奥さんの手料理が並ぶ。う〜ん、豪華。郷土料理のこづゆは、お椀の中に具がたくさんあって栄養万点って感じ。奥さんは関東圏から嫁いできたということだけど、会津という地域で頑張っていた。この日は会津弁が飛び交って、時々理解不能になったが、Tさんが気を利かせて通訳してくれた。社長の奥さんが、『関西の人は関西弁を直そうとはしない』という。そういえばそうだなあ。関西弁はそれなりに認知されているのかな。だけど会津の人は、会津弁には気を使うようだ。Tさんは会津以外のところに電話するとき緊張するという。私には会津なまりは耳にやさしく感じられた。不思議なことにしだいに理解できるようにもなっていた。『雪が降っているよ。』とHさん。雪がしんしんと降っていて、窓を開けると冷気が入り込んできた。やっぱり雪国なんだ。スキー場で味わった感触がよみがえってくる。部屋が暖かいので忘れていた。スキーと言えば、T社の社長さんは、スキーが得意で特に教えるのが上手だと言う。外見からはとても想像がつかないが、でも皆なの意見が一致しているので多分そうなのだろう。

 会津の人はお酒が強い。すごいピッチでぐいぐい飲んでいるが、さすがに酔いがまわってきたようだ。『村松さんが好きだ〜』、『僕も〜』と言う会話が飛び出す。聞き方によってはちょっと危ない科白だが・・・。所長に対する社長の信頼、所長が設計したこの家に対するHさんの満足を感じた。『村松さんに出会えて、本当によかった。』と心から言ってくれるのが嬉しい。またHさんは、施工をしたT社の社長さんにもとても感謝をしていて、社長さんを盛りたて、『これからもがんばってもらいたい、そのための協力は惜しまない。』とも言っていた。設計者、施工者、施主というこの3者のあいだに信頼の絆が結ばれていた。口が悪いと自ら認めている社長の奥さんも『縁というものは不思議なもの。この縁を大切にしたい。』としみじみ語ってくれた。会津の人は慎重で心を開くのに時間がかかるというが、いったん開いてしまうととても親密になる。所長が仕事を通して皆に信頼され、信頼されるに足る仕事をしてきたのだろうと思うと改めて所長のすごさを感じた。


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村松篤設計事務所

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