|
日本は雨が多い国である。春雨（はるさめ）、秋雨（あきさめ）、時雨（しぐれ）、冷雨（れいう）、冬時雨（ふゆしぐれ）、五月雨（さみだれ）など、その一語で季節を表現することが出来る私達は、雨に対して敏感な心を持ち合わせている。雨の日はとかく気分が湿りがちだが、考え方によっては、こんな時だからこそ内に篭り、自分自身を見つめ直すいい機会なのではないかと思うことがある。激しい雨は遠慮したいが、しとしとと降る小糠雨（こぬかあめ）は、ひとつのことに集中したい時など、不思議な力を与えてくれるように感じてしまう。
普段「明るくて、風通しの良い家にしたい」という建主からの要望が多い中、今回は「雨音を感じ、流れる雨を硝子越しに見ながら暮らしたい」という要望に、とても新鮮な感じを覚えた。と同時に、私の中でスイッチが入った。それまで、頭の中でモヤモヤしていたものが一瞬にして吹き飛ばされ、こうあるべきというひとつの空間が浮かんできたのである。
敷地は浜松市の北部、周りには住宅や工場が建ち並ぶものの、田畑も点在する環境にある。主要幹線道路から少し奥に入っていることから前面道路の交通量はさほど多くなく、比較的静かである。また、南側に広がる田園を吹き渡ってくる風はとても気持ちよく、暮らす上で気分を爽快にさせてくれるだろうということは容易に想像できた。
建主の要望は、前述の〝雨〟に加えて、〝冬暖かく、夏涼しい〟と〝光と影のバランス〟であった。
これらのことに対して私が答えた考えは、
1、 光と風をコントロールしながら雨を感じる仕掛けとして、天窓を多用
2、冬暖かく、夏涼しい室内気候を実現するため、『そよ風』を採用
3、 平屋建ての特性を活かした無駄の無いプランニング
である。
住まいの中心に据えた広間は、屋根に設けた連続天窓から一日を通して安定した光が届くことで、明るい空間に仕上がった。雨天時には一転、天窓の硝子面を流れる雨垂れを感じながら、静かで落ち着いた時を刻むことも可能だ。隣接した畳の間は、北庭を眺めるために設けた地窓に向かって、床を這うように吹き抜ける田園からの風を受け、気持ちいい空間になっている。仕切りの少ないひとつの空間は暮らす上でストレスが少なく、空気に淀みがないため過ごしやすい。それぞれの部屋を繋いでいくという構成ではなく、各々のコーナーがひとつの空間の中に適所に納まっているというプランである。それらは、全て太陽エネルギー利用システムのお陰であることは、言うまでもない。空間を適度に仕切るための木格子は、影を生みながら視線をコントロール出来る優れものである。天窓からの光がこれに当たったときは、自然が産み出すデザインに惚れ惚れしてしまうかもしれない。
こうして、雨を意識した住まいが誕生した。 雨音を聞きながら、雨のしずくに想いを馳せ、雨垂れを見て楽しむ。 日本に住まうこととは、如何にしたら雨と共存することが出来るのかを、改めて問われているように感じた。日常の暮らしに、雨を堪能できる喜びを味わって欲しいものである。（村松篤）
|
