磐田・直庵 |
設計コンセプト |
普段何気なく生活している周りの風景。これがある日突然、一変してしまう現実を目の当たりにしたことはありませんか。慣れ親しんだ森の木々が薙ぎ倒され、禿山の様相を見せたと思いきや、工事車輌の強力で土が崩され、いつの間にか道路が出来、インフラが整備され、住宅地へと変貌を遂げる。新しい町がまたひとつできたその場所には、何処の国のデザインかまるで分からない無国籍住宅なるものがアメーバのように繁殖していく。そこには、家づくりにあたって一定の協定なるものが存在してはいるものの、わが国特有の自分第一主義を盾にして、秩序の無い集落が出来上がっていくのだ。これまで数多くの新興住宅地が、同じ足跡を辿って来たことは今さら言うまでもない。 一方で、さほど大きくは変わらない風景も存在する。そこは周辺の土地が田畑によって占められてはいるものの、計画道路が走り、河川も整備されているような場所である。現状では、ここに都市を築いていくことを行政側が禁止しているので、早々に変化していくはまずありえない。ただ、郊外に見られるような大型ショッピングセンターが合法を主張し、出店などという可能性は否定できないが・・・。 周りは住宅で囲まれているものの、東側は長閑な田園風景がどこまでも続く環境にその土地はある。西方には一級河川の天竜川が流れ、地元では暴れ天竜≠フ名の通り過去に幾度も氾濫した経験を受けてか、立派な堤防が築かれている。とはいえ、静岡県がWebで公表している浸水マップによると、辺り一面は相当の高さまで浸かってしまうことが分かっているので、決して油断はならない。先日起きた大震災でも見られたように、想定外の事態はいつ起きても不思議ではないのだ。非常時における備えを万全にした上で、日常の平穏な生活を送る大切な住まいとはどうあるべきかを、長い時間を掛けて考えてみた。 はじめにそこを訪れたとき、町に住む人が、そこを通りがかった人が、あるいはここを訪ねてきた人が、一瞬立ち止まるような家をこの場に置こうと思った。それはどこか実直で素直な印象を持ち、容姿が美しく、洗練かつ素朴な雰囲気を醸し出した家だ。決して主張しているわけではないが、必ず目に留まるであろう優しい表情の大屋根は、素形というか日本人が持っている感性に響くものを感じさせてくれる。塗り壁による外壁、全開になる木製の建具、深い軒下の木製デッキ、昔の農家を思わせる土間の叩き等々、どれも昭和人にとっては見慣れたものだが、これらを新しいデザインでかつ機能を向上させることによって、全く違うものに進化させたいと考えた。 林立した杉の柱にコンクリートの壁が貫入するアプローチは、この先にどのような世界が展開しているのかを想像させるような設えとした。それは拒絶せず、誰でも迎え入れたいという住まい手の想いが、ひとつの形を導き出している。木とコンクリートのどちらも無垢の材料は、住まい手の本物を追求する正直な心にどこか通じるものがあるのかもしれない。時間の経過とともに熟成した表情になりえた時、この町にとっていつまでも語り継がれるような素直な家になることを、心から願っている。(文 村松篤) |
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