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静岡県浜松市の設計事務所 村松篤設計事務所

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〒432-8002 静岡県浜松市中区富塚町1933-1

 浜松・憩庵

設計コンセプト

 古くから、その地域で親しまれている場所がある。
それは近所の公園であったり、神社の境内であったり、あるいは毎日通う名も無い砂利道の傍らにひっそりと置かれている木のベンチかもしれない。

幼い頃、よく足を運んだ駄菓子屋のお好み焼きは格別の味だった。
そこには子供だけでなく、町内の大人たちも煙草を買いに来たついでに、同じ鉄板を囲んでは四方山話を語り、輪の中に溶け込んでいく。いつの間にかこうした光景は見られなくなってしまったが、永くその土地に 染み付いている良き交わりだけでも、続けていってほしいものである。

浜松市西部に位置する伊左地町には、平安時代に創建された古い神社がある。
町の住人からは「権現さま」と呼ばれていて、節目の行事には今でも多くの人たちで賑わうほど、大変親しまれている。こうした土地で、長い間まちの憩いの場であった煙草屋さんも、同じように住人にとっては欠かせない存在であったに違いない。今だからこそ、コンビニでは味わえない、人と人とのふれあいを大切にした場をまちに提供できないかと考えた。

昔ながらの真っ赤なポストが目印の『煙草屋さん』。
入口の脇には大きな落葉樹が植えられ、季節感をまちに呼び戻す。春には美しい花が咲き誇り、夏には大きな葉が西日を遮るように影を落とす。その下には木のベンチが置かれ、ある時は子供たちが、またある時は近所のお年寄りが腰を下ろしてその風情を楽しむ。

住まいの入口脇にも木のベンチを設え、奥に見える常緑樹が訪れる人を誘う。少しゆったりした玄関には小さな腰掛が置かれ、ちょっとした会話が弾む。1階は道路からの騒音を遮るため、普段いない諸室を北側に配することで、前室南向きの明るく落ち着いた部屋の構成が可能になった。2階は1階と間接的に繋がるような部屋の配置を心掛け、南側には各室から直接出入りできる連続バルコニーを設けている。

道路に面した北面は、木格子によって秩序ある表情をつくりだし、そこから見え隠れする木々や家の様子を伺い知ることが出来る。夜になると、部屋の明かりが格子の間から漏れ、道を歩く人の足元を優しく包み込む。まちに親しむこうした家づくりこそ、いま求められているのではあるまいか。(文 村松篤)

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