敷地は交通量の多い国道沿いにあり、騒音や振動の影響は避けられない。また、南西側には2階建ての隣家が迫っているため、日照の確保も課題のひとつ。ゆとりのあるはずの敷地は、かなりの変形である上に、方位も振れているので、有効利用をするための建物の配置に考慮しました。北西方向に連なる緑豊かな山並みは、この場に憩いを与えてくれるでしょう。
Oご夫妻が、何となく浜松産業展示場で行なわれていた住まい博に立ち寄った折、そこに展示されていた遠江・奏庵のパネルにとても共感したということで連絡をくれました。軒が深く、平屋のように見えるけど実は2階建てである点や、自然素材を使い、室内空間が一体となった奏庵がご夫婦の理想のようです。今年4月に浜松市と合併になった天竜区の山東にある庵という意味で“山東(さんとう)庵”と命名しました。
無事引っ越しも済ませ、新しい生活を始めたOさんご夫妻。先日、所長が訪ねると、「“夢のようだけど、夢じゃないんだよね”って云って暮らしています」との事。家に愛着を持って暮らしている様子が、思い浮かびます。長い時間を掛けて、手間を惜しまず、大切に育てられた庭の木々。
風雪に耐えながら、時を刻みつづけた、古美の味わいを持つ日本家屋 この場に、違和感なく溶け込むような慎ましい家を、私は置こうと思った(文 村松利枝子)
静岡県住まいの文化賞最優秀賞(静岡県知事賞)、木の住まいデザインコンクール最優秀賞 |